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『ホワイトハンズ』では、実際にスタッフとして活動する佐藤幸子さんも取材に応じてくれた。佐藤さんは長年看護師として働き2年ほど前に定年退職。新潟市内で暮らしていたが、昨年の7月に掲載された『新潟日報』の記事で『ホワイトハンズ』の活動を知り、「目からウロコが落ちた思い」で、スタッフとして参加することにしたという。
「今までの介護や看護の現場では、性の問題は存在しないものとして扱われてきました。でも、性的な問題が起きた時には経験豊富な看護師などが記録に残さない作業として対応してきたんです。その対処法は『裏看護』『裏介護』として口伝で継承されてきています。でも、なかには看護師のオッパイを触りたいという衝動がリハビリのモチベーションになる患者さんもいるのは事実。障害者や高齢者の性の問題から目を背けるのではなく、ちゃんとした仕組みを確立して、解決していかなきゃいけないと感じたんですよ」(佐藤さん)
とはいえ、従事するのは射精介助だ。いかに社会的な意義があるとはいえ、配偶者や恋人などの理解を得られるものなのだろうか。 性的介助の手順などを詳細に解説したテキストなどもある。 「もちろん、主人にはスタッフになる前に話しましたよ。『オレも頼むよ』と笑って理解してくれました。私の家庭には娘が2人いますけど、以前から性に関することはあっけらかんと話せる環境でした。家族やパートナーの理解は不可欠ですし、性の話題などに拒否反応を感じる人には向いていない仕事です。射精介助をすることで自分自身のセクシャリティを保持できない人は、関わるべき問題じゃないのかも知れません」(佐藤さん)
活動の中では、ケア中にセクハラまがいの発言をされて、スタッフがショックを受けたりすることもあるという。エロスとしての性と、生理現象としての性の境界線は、人によって異なるのは当然だ。また、ケアの対象や方法を絞り込んでいるだけに、女性の障害者へのケアをどうするかなど「今後の課題」(坂爪氏)も少なくない。
『ホワイトハンズ』ではスタッフとして働く人に独自のカリキュラムで研修を行っている。公式サイト上で『性の介護検定』を公開したり、『全国プライベート・ケア協議会』という情報サイトを開設して、性的介護の進むべき方向を模索している。
「性という漢字は『心を生かす』と書くでしょ。介助が必要な方にとって、性は間違いなくQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に関わる重要な問題です。でも、病院で働いている時は、患者のさんのQOLと勝負しにくかったですからね」という佐藤さんの言葉が印象的だった。
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